厚生労働省は、食事から摂るコレステロールの上限目標量を撤廃しています。
血液検査をして、コレステロール値が少しでも高いと、ドクターからコレステロールの多い食品は控えるように指示があります。特にコレステロールが多い卵黄、鶏のレバー、魚介類のイカ、イクラ、たらこ、エビや脂が多い肉など、食事には気をつけるようにと注意を受けるのが当たり前になっています。
ほとんどのドクターや健康番組などに出演している先生方も昔からずっと話していることなので、皆さんも耳にタコができるほど聞いていてご存じかと思います。タコのコレステロールも高いです!笑。
そして今回の『食事摂取基準』というタイトルの中から、コレステロールに関した内容を掘り下げてみました。『どんポジ』のポジといいます。
そもそも、私がコレステロールを調べた理由は、以前は障害者総合支援法の対象となっていた原発性アルドステロン症という二次性高血圧を引き起こす珍しい病気になり、その病気が原因で脳出血を経験してしまいました。腹腔鏡下による原発性アルドステロン症の手術治療で左の副腎を摘出後、クレアチニン値が下がらないので腎機能を維持するためにLDLコレステロール値を下げることになったのが発端なのです。
食事摂取基準とは?
食事摂取基準というのは厚生労働省が5年毎に定めている、健康な日本人を対象に国民の健康維持や生活習慣病の予防、過剰摂取による健康障害の予防などを目的とした、科学的根拠に基づきエネルギーや各栄養素の摂取量の基準を示すものです。
しかし個人差によっても異なったり変動が大きかったりすることから、食事摂取量は確率論的な考えが必要となりました。
食事では影響しない、コレステロール値
厚生労働省はこれまでコレステロールが高い食品の摂取量を減らすことが推奨され、食事から摂るコレステロールの1日の上限目標量が成人男性が750mg未満、女性が600mg未満とし健康な国民を対象にした『食事摂取基準』というものを打ち出していました。
コレステロールの上限目標量を撤廃
しかし、食事からのコレステロール摂取量の基準値を算定するための十分な科学的根拠が得られなかったため、2015年(5年間利用)、厚生労働省は日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限を撤廃したのです。
どういうことかと言いますと、今まではコレステロールが多く含まれる食品はあまり食べ過ぎないようにということでしたが、2015年からコレステロールの摂取上限を撤廃した理由は、
実際、食事から摂れるコレステロールは、体内で合成されるコレステロールの1/3~1/7しか摂れません。
体内の合成では、約80%を肝臓を中心に全身でつくり、毎日12~13 mg / kg体重、を生産しています。
残りの約20%を食事から摂取しますが、もし食事からコレステロールの摂取が増えた場合、健康な人であれば、体内での合成が減り、末梢へのコレステロールの補給が一定に保たれるように、フィードバック機構が働いて調整できる仕組みになっています。
今までの我慢はムダだった?
この食事摂取基準の撤廃内容を初めて知った時は信じがたい内容でした。今までコレステロールの多い食品には気を付けて食事をしていたのに、食べ物からのコレステロール値の影響はないので、気にしなくてもいいですよ!今まで言ってた食事摂取基準も撤廃するよって言われちゃったのです。今までの我慢は何だったのか・・・!アレもコレも食べておけばよかった!笑
今年は厚生労働省の食事摂取基準が5年の有効期間が終わり、新たな2020年度から5年間の内容が公示される予定です。(公示されましたので、主な変更点を最後に追記してあります)私は、つい最近も病院での血液検査で、コレステロール値が少し高いのでコレステロールの多い食べ物は控えるようにとドクターに注意を受けたばかりなのです。
ドクターの注意は変わらない!
厚生労働省の公示から何年も経っているのに、かかりつけの先生は厚生労働省の発表内容を知ってか知らずか、卵とか、イカやエビ、脂っこいものは控えるようにと、撤廃前と同じ注意をしてきました。
これはいったいどういうことなんだろうと不安になったのはもちろん、先生の情報(勉強)不足だとしたら余りにも悲しい出来事です。笑!もしくは、私の厚生労働省発表内容の読解力が不足しているのか?疑問を持ちました。そして、他の団体の見解も調べてみることにしたのです。
日本動脈硬化学会の見解
『日本動脈硬化学会』は、食事からのコレステロール摂取と血中コレステロールの間には、明らかな証拠が数字として出せないので、日本動脈硬化学会も健常者のコレステロール摂取に関して上限値の撤廃に賛同し、健常者は食事中のコレステロールを制限する必要はないですよとの発表です。
やはり私の読み間違えではありませんでした。ですが、気をつけないといけないのが、日本動脈硬化学会もこのコレステロールの上限撤廃は健常者が対象であること、そしてLDLコレステロール血症患者にも当てはまる訳ではないということに注意を促しています。厚生労働省も健康な日本人を対象にした摂取基準であると記載されています。
ここでまた疑問が?
既にコレステロール値が高いコレステロール血症の患者さんは、やっぱり食事をする時はコレステロールの多い食品に気を付けて食事を取りなさいと言うことなのでしょうか!
LDLコレステロール値は食事からの影響はないということになったのに!!LDLコレステロール血症患者には食事から摂るコレステロールの影響があるということなのでしょうか?
米国農務省と厚生労働省の発表に賛同
2015年2月に米国の農務省が発表した「米国人の食生活に関するガイドライン」と同年3月に厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、今まであったコレステロール摂取上限値を設けないとの発表があり、他団体もこれに賛同している形のようです。
血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値が高い人は、運動や生活習慣、そして食事などを包括的に考えないと食事だけを制限しても改善に期待はできないようです。ここでも食事という言葉が出てきます。
DASH食(ダッシュ食)
脂質を考えた場合、コレステロールだけではなく脂肪酸のバランスに気をつけることが大切とのことで米国は『DASH食』などが推奨されています。日本は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012が『日本食』を推奨しています。
Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を防ぐ食事方法)の略語で、アメリカの米国立保健研究所などが提唱する高血圧の改善に高い効果があると認められた食事療法です。基本は、肉類と砂糖を減らすこと、野菜や果物、低脂肪の乳製品を十分に摂るということですが、血圧を下げる効果のある食品を単品で食べるよりも、組み合わせて摂る方が効果が大きく、改善されるということです。高血圧以外にも、糖尿病、高脂血症、痛風(高尿酸血症)などにも有効ですが、腎機能障害のある糖尿病や合併症のある人には適しません。
例えば食物繊維を多く含む大豆製品や野菜、海藻類の摂取が増えれば血中のコレステロール値が下がることがわかっています。コレステロールや脂質を多く含むものを減らす食事だけを気を付けるのではなく、包括的に考えることが有効だということ。包括的という意味はこのようなことなのですね。
診断基準値
『日本動脈硬化学会』の診断基準値
LDLコレステロール血症の診断基準値を 140mg/dl 以上、としていますが、140を超えたらすぐに薬が必要という意味ではないとしています。しかし、現実は140以上のLDL値だと、高LDLコレステロール血症と診断され薬をすぐに処方されることが常識のようになっていると感じます。この140という基準値はとても多くの医師が参考にし、処方しているようです。
『日本人間ドック学会』の診断基準値
日本動脈硬化学会は140なのですが、健診機関によって幅があります。2014年4月4日に日本人間ドック学会によって公表された新基準では、男性が178まで正常値です。女性は閉経後からのLDLコレステロール値が高くなるので年齢別に考えています。30歳~44歳は152まで。45歳~64歳は183まで。65歳~80歳は190までを正常値としているのです。
両機関によって数字の開きがとても大きくて驚きです。そしてこの『日本人間ドック学会』の2014年に発表された新基準値に対しては多くの批判があったらしく、翌年の2015年からの運用予定が導入されず、私は現在でもこの基準値を病院で聞いたことがありません。ストップがかかったのでしょうか!?
今まで、コレステロール値が140を超えれば薬を処方されていた人たちが、男性が178までが正常、女性の65~80歳なら190までが正常だとすると、コレステロールの薬を飲まなくてもいい人々が膨大な数になるような気がします。(違う見方をすると、膨大な数の薬が売れなくなります。もしそこが理由なら情けなくなるので、止めておきます。)
私のコレステロール値も余裕の正常値になるのです。体のことだけを最優先に考えた場合、いったいどちらの基準値が正しいのか、もっと調べていきたいと思います。
そして、日本人間ドック学会によって公表された新基準に対して、あったとされる多くの批判の理由やどのような機関(団体)が批判してるのかも、とても知りたいところです。
参考文献
コレステロール摂取量に関する声明(2015年5月1日) 日本動脈硬化学会
日本人の食事摂取基準(2015 年版)総論 脂質 厚生労働省
新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による 150 万人のメガスタディー 日本人間ドック学会・健康保険組合連合会 検査基準値及び有用性に関する調査研究小委員会
追記
日本人の食事摂取基準(2020年版)
主な変更点
・「高齢者の低栄養・フレイル予防」が追加されました。
・50歳以上の年齢区分が細かく分類され、前期高齢者と後期高齢者が区分されました。
年齢(歳) | 年齢(歳) |
18~29 | 18~29 |
30~49 | 30~49 |
50~69 | 50~64 |
70以上 | 65~74 |
75以上 |
・生活習慣病の予防のために、食塩の目標量が引き下げられました。
成人男性 | 8g → | 7.5g |
成人女性 | 7g → | 6.5g |
・食事摂取基準では、目標量は設定されていませんが、脂質異常症の重症化予防を目的に、コレステロールを200mg/日未満に留めることが望ましいと新たに記載
参考文献
日本人の食事摂取基準(2015 年版